~消滅時効の援用で失敗しないために知っておきたいこと~
給料差押えはなにか、なにをすれば実行されるのか、実行までの流れも含めてまとめて解説しています。
給料差押えとは、債権回収方法の1つです。民事執行法という法律で認められており債権者は裁判所の許可を得れば、債務者の給料から、毎月、一定額を回収できます。
給料以外に差押えることができるのは、債務者名義の預貯金や動産や動産などです。ただ、給料の場合、差押えがしやすいというメリットがあり自然と優先順位は高くなります。たとえば債務者は金融機関に借金を申し込むとき、ほとんどは契約書に勤務先を記入しているはずです。勤務先がわかれば調査の手間もかかりません。勤務先に給与差押えの通知をするだけで簡単にできます。
給料差押えといっても一度に回収できる金額には上限が定められています。全額差押えられるわけではありません。差押え上限のポイントは月収が44万円以上か以下です。(※1)
手取り月収が44万円以上なら、手取り給料から33万円を差し引いた金額までで、手取り月収が44万円以下なら、手取り給料の1/4までを差押えられます。たとえば手取り月収が20万円なら、差押えの限度額は5万円程度です。残り15万円は残ります。
手取り月収50万円なら33万円を差し引いた17万円が差押えられる上限となり、差押え後の残額は33万円です。
差押えは債権者が自由にいつでもできるわけではありません。債務者の給料を差押えるには、次の4段階をクリアする必要があります。
債権者は裁判で手続きをしないと差押えはできません。裁判手続きは時間も手間もかかります。その前に債務者が返済してくれればいいため、最後通告、訴訟予告を通知するのです。それでも返済がなければ、裁判をして差押えをするしか回収できません。
返済期日を過ぎた翌日から、利息ではなく遅延損害金が発生します。遅延損害金は滞納に対してのペナルティです。利息より高い利率が、利息制限法第4条1項で許可されています(※2)。滞納日翌日から、債務者には通知書や電話による督促通知がスタートします。
督促とは「記載された期限内までに支払いを求める書面」です。「返済期限が過ぎていますよ。早く返済してください」という債権者の意思を伝える書面です。法律的な強制力はないですが、差押えまでの1段目と考えておけばいいでしょう。
返済せずに2ヶ月以上経過すればブラックリスト入りです。正確には信用情報機関に金融事故として債権者に報告されます。ブラックリストに載ると新しく借り入れもできませんし、クレジットカードも利用できなくなるのです。
滞納が2ヶ月~3ヶ月経過すると、債権者は期限の利益損失に基づいて一括請求を通知してきます(※3)。期限の利益とは約定どおり分割弁済を続けるなら、残った債務の一括請求はないという債務者の利益です。
しかし滞納が2ヶ月~3ヶ月も続き、督促の内容に定められた期日まで返済しないと期限の利益は失われます。結果「残った債務をすべて一括で支払ってください」と請求できるのです。
残った債務の一括請求を受けても期限までに返済しないと、債権者は訴訟提訴と支払督促の申し立てをします。ただし、裁判手続きのタイミングは債権者次第です。たとえば即座に裁判手続きをして、訴状を送るケースがあれば、半年ほど経過してから送るケースもあります。
どちらにしても訴訟となれば、債務者の呼び方が「被告」と記載されているような書面が送られてきます。
裁判所から訴状が届いても放置すれば、最短1ヶ月程度で敗訴判決です(※4)。欠席判決で、債権者は債権を強制執行できるようになります。債権は遅延損害金も含めた全額です。つまり債務者は差押えを受けるしかなくなります。
支払督促の場合、簡易裁判所から支払督促正本が届いて2週間以内に異議申し立て(※5)をすれば、とりあえず差押えは避けられるでしょう。もし異議申し立てをしないと、仮執行宣言付き支払督促正本が送られます。それでも債務者が放置して2週間経過すれば仮執行宣言付支払督促が確定(※5)。結果、債権者は強制執行の手続きができます。
判決確定後、債権者は債権差押命令を申し立てます。期間は判決確定後、1ヶ月もかからない程度(※6)です。債権差押通知は裁判所から、まず勤務先に届きます。もし債務者へ先に送ると逃げる危険性があるからです。債権差押通知が届いた勤務先は、第3債務者という立場に変わります。債務所に払う給料があれば、一部を債権者に支払います。
給料を差押えられると、生活をはじめ多大な影響があります。以下、想定できる影響をご紹介します。
単純に手取りの給料が毎月減るために、生活レベルは下がります。生活自体はできますが、得られていた給料より減るために節約が求められるでしょう。賃貸の場合、減る前の給料前提で借りていた場合、賃料を支払うさえ苦しくなる可能性もあります。
遅延損害金も発生しているため、支払う金額は大きくなるわけです。差押えは全額回収するまで約定した内容に従って、続きます。住宅ローンを組んでいる人は大きな負担となり、他の債務があれば返済計画は崩れて生活が成り立たないでしょう。
ボーナスや退職金も給料とみなされて減ります。給与とボーナス両方支給される月では、44万円以下は給与とボーナスそれぞれ1/4ずつ、44万円以上なら両方から33万円ずつ引いた金額が差押え対象です。対象金も民事執行法第152条により、3/4を除いて差押えられます(※7)。
ボーナスで毎月の差押え分をカバーすることは、ほぼできないでしょう。
差押えをされると勤務先に差押え通知が届くため、隠しても確実にばれます。借金があるまでなら金額次第で問題にならないかもしれません。しかし、差押えにまで発展すると話は別です。借金をしてもきちんと返済できない人間として、信用を失います。
ただ、給料の差押えがあっても企業はそれが理由で解雇できません。日本の労働法で従業員は守られているからです。整理解雇、懲戒解雇以外で、解雇できる理由は労働契約法で制限されています。そのため、差押えでは解雇されたりしません。
給料以外に差押え対象になるものがあります。
不動産は給料以外の差押え対象です。住宅の金額は大きいため、住宅ローンを組む方がほとんどでしょう。その場合、ローン会社が対象の土地や建物に抵当権の設定をしています。抵当権は訴訟判決がなくても強制執行可能です。
住宅ローンの支払いがなくなると債権者は「担保不動産強制競売」を申し立てます。結果、不動産売却価格から債権を回収するのです。その後、競売にかけられて落札者が決定すると、自宅を手放さなければいけません。
所有している自動車は差押え対象です。自動車ローンが残っているなら、ローン会社の所有権留保がついているケースもあります。所有権留保は抵当権と同様に、優先的に債権を回収できる権利です。そのため、返済が停滞すれば手放すのが一般的です。
所有権留保がない場合、債権者は動産執行の申し立てで車を強制執行で差押えることが可能です。ただ、所有権留保がない自動車への動産執行は成功率が低いためあまり見られません。
高級な家財や嗜好品も差押え対象です。たとえば、高級腕時計や宝石、バイオリンのような楽器類や美術品が当てはまります。ただ、家財や高級嗜好品は保管コストや売却の手間も考えなければなりません。そのため、差押えができてもあえてしていないケースも見受けられます。
給料以外ですぐに差押えられることが多いのは預貯金口座です。預貯金口座では銀行が第三者債務者です。請求された金額は債務者の口座から引き落とされます。ただ、差押えでも口座そのものは利用可能です。
預貯金の差押えについて注意したいのは、差押え制限がない点。たとえば100万円の債権差押えがあったとします。給与の場合は差押え金額にも上限がありました。預貯金口座の場合はないのです。そのため、預貯金口座に100万円が入っていれば、全額差押えられます。結果、預貯金0になっても差押え自体は止められません。
給料差押えが現実的なものになる前に、弁護士に相談したほうがいいです。弁護士なら債務整理を提案してくれます。債務返済に困ったら、債務整理で状況の改善が期待できるからです。
債務整理は、任意整理、個人再生、自己破産があります。
任意整理は遅延損害金、将来利息、経過利息の減額が期待できます。ただし、債務の元金は減りません。しかし利息だけ支払って元金が減らないという最悪の状況を脱出できます。
個人再生は裁判所への申立てにより認可決定を受け、通常債務の1/5まで減額出来る(※8)のがメリットです。たとえば、借金額が100万円~500万円ある場合、100万円まで減額できます。3年~5年は確実に分割弁済できるだけの収入の証明が必要です。住宅ローン特則で、ローン返済を続けられるのもメリットでしょう。
自己破産なら債務が全額免除になります。代わりに財産と引き換えなければなりません。不動産や自動車や保険などの財産は失われます。ただ、日用品、99万円までの現金は残ります。ただし、税金や社会保険料の免除はないです(※9)。
上記が債務整理の内容です。債務の額や事情でどれが一番いいか考える場合でもまずは弁護士に相談してみてください。
時効の援用という方法もあります。債権者がお金を回収できるのは民法上で権利があると定められているからです。お金を回収する権利は時効により消滅する可能性があります。2020年4月1日以降の借り入れの場合、債権の消滅時効は「債権者が権利を行使できると知ってから5年間行使しないとき」「権利を行使できるときから10年行使しないとき」という条件を債務者は満たさなければなりません(※10、※11)。
消滅時効は、返済期日の翌日からカウントがスタートします。債権者が権利を行使できると知ってから5年か、権利行使が可能となったときから10年、どちらか早い方で満了です(※10、※11)。
ただし、5年~10年経過さえすれば消滅時効は自動で成立するわけではありません。民法145条で「時効の援用」が必要とされているのです(※12)。債権者に対し「時効の利益を受けることを示す」というもので、債権者に内容証明郵便を使い「消滅時効を援用する」と伝えます。
現実的には成立はむずかしいです。催告、裁判上の請求や支払い督促、差押えといった強制執行、債務者自身の承認などで、多くは時効のカウトダウンを止められたり、差押えで阻止されたりします。
給料の差押えをされる前に、弁護士のような法律の専門家に相談することをおすすめします。放置しても債権者は許してくれません。差押えを受ければ、生活も厳しくなります。その前に、弁護士に相談してみましょう。
(※1)e-Gov法令検索|民事執行法施行令第2条
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=355CO0000000230_20150801_000000000000000)
(※2)e-Gov法令検索|利息制限法第4条1項
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000100)
(※3)弁護士法人イージス法律事務所
(https://www.aegislo.com/saimu/arbitration/14483/)
(※4)伴法律事務所
(https://www.ban-lawoffice.com/newpage2.html)
(※5)弁護士法人みずき 東京みずき法律事務所
(https://www.mizukilaw.com/personal/debt/foreclosure-notice/)
(※6)STEP債務整理
(https://clamppy.jp/step-saimu/debt-seizure-order/)
(※7)e-Gov法令検索|民事執行法第152条
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=354AC0000000004)
(※8)債務整理弁護士相談広場
(https://agoora.co.jp/saimu/individual_rehabilitation/individual-rehabilitation-demerit.html)
(※9)弁護士法人アディーレ法律事務所
(https://www.adire.jp/lega-life-lab/self-bankruptcy-disclaimer993/)
(※10)e-Gov法令検索|民法第145条・第166条
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
(※11)法務省_消滅時効に関する見直し(PDF)
(https://www.moj.go.jp/content/001255623.pdf)
(※12)e-Gov法令検索|民法第145条
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
代表弁護士:田中 健太郎 先生
法律相談件数が20,000件を超える実績(2023年8月時点)がある東京スカイ法律事務所では、【借金問題の相談無料】という相談者にとって非常に助かるサービスを提供しています。
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