~消滅時効の援用で失敗しないために知っておきたいこと~
借金は、本人だけでなく家族も悩ませる問題です。親や子ども、兄弟などが借金をしていることが分かり、今後の返済について心配している人もいるかもしれません。
借金の返済が難しいようであれば、債務整理もしくは時効の援用を検討する必要があります。
ここでは、家族の借金が発覚したときに何をすべきなのかをはじめ、保証人にされていたときの対応や家族が本人に代わって債務整理または時効の援用の手続きができるのか、などについてまとめました。
家族が借金していると分かったら、次の事項を確認しながら現在の借金の状況を把握しましょう。
債務者は複数の業者から借入しているケースが多いため、どこからどのぐらい借金をしているのかを把握しておかないと、適切な返済計画を立てることができません。そのため、借金が発覚したからと言って慌てず、まずは落ち着いて借金の状況を整理するところから始めましょう。
現在の借金の状況を整理したら、返済計画について話し合います。返済が途中で行き詰まるとライフプランに悪影響を及ぼす可能性があるため、現実的な返済計画を立てることが重要です。返済計画を立てる際は、次のことを意識するようにしましょう。
返済計画は無理のないペースで返済できて、いつまでに完済できるのか分かる状態にするのが理想です。返済計画を立ててみて、本人の努力や家族の協力があっても返済が難しいようであれば、債務整理や時効の援用の検討が必要になります。
本人が自力で支払う場合、家族は本人に「借り増しは一切しない」と約束させることが大切です。たとえ完済したとしても、本人が借金を繰り返してしまっては返済に苦しむ生活から抜け出せません。
約束を破って借り増しをしないように、借り増しで返済できなくなると債務整理が必要になること、債務整理にはリスクも伴うことを本人にしっかりと説明しましょう。
ただし、複数社から借り入れている債務者は借金をするハードルが低くなっているケースが多いため、キャッシング用のカードやクレジットカードなどを家族が預かり、借り入れできないようにするのも有効です。
債務者が家族の許可を得ず、実印などを勝手に持ち出して保証人や連帯保証人にしていた場合、家族に返済の義務はありません。ただし、債権者から保証契約が有効なものとして支払いを求められる場合があるため、困ったら弁護士に相談するのがおすすめです。
一方で、家族が自分の意思で保証人や連帯保証人になっていた場合は、保証契約の無効を主張することはできません。
家族だとしても、本人の代理で債務整理の手続きを進めることは基本的にできません。
なぜなら、借金は債務者が貸金業者と交わした契約に基づいたもので、当事者以外が債務整理を行なって契約内容を変更することはできないためです。また、債務整理の手続きに必要な取引履歴は重要な個人情報となり、業者はこれを保護する義務があるので、開示請求は債務者本人からしか行なえません。
弁護士や司法書士であれば本人の代理で開示請求できますが、それには本人の代理であることを証明する委任状が必要となり、委任契約を結べるのは本人のみです。そのため、専門家に代理手続きを依頼するにしても、家族ではなく債務者が行動しなければいけません。
ただ、契約に関わる手続き以外のことであれば、本人以外の家族でも専門家に相談することができます。本人が債務整理に積極的ではなくて困っている場合は、専門家と相談しながら解決方法を考えていきましょう。
また、例外として債務者に成年後見人がいる場合、成年後見人が本人に代わって債務整理の手続きを進めることができます。本人が高齢や病気などで十分な判断能力がなくなり、自分の意思で債務整理を依頼することができない場合も、家庭裁判所に後見人を選定してもらえば、後見人が代理人となって専門家に代理手続きを依頼することが可能です。
返済義務が発生する連帯保証人にも時効の援用の権利が認められるため、時効の援用の手続きを行なうことが可能です。
ただし、連帯保証人が時効の援用の手続きを行なったとしても、その効力が及ぶのはあくまでも連帯保証人のみ。本人の返済義務はなくならないため、借金問題を根本から解決するには債務者自身で時効の援用の手続きを行なう必要があります。
債務者が死亡して借金が残った場合、財産を相続した家族が借金も相続することになります。そのため、借金を相続した家族であれば、時効の援用の手続きを行なうことが可能です。
財産の相続人が複数いるケースでは、時効の援用の手続きをするのにほかの相続人の同意を得る必要はなく、それぞれで時効の援用の手続きを行なえます。ただし、1人が時効の援用を行なったとしても、そのほかの相続人の返済義務までなくなるわけではありません。
返済義務をなくすには、相続人それぞれが自身で時効の援用の手続きを行なう必要があります。
そのほかにも、資産は受け取れなくなりますが、相続放棄することでも借金の相続を回避することが可能です。借金が複数あって、個別に時効の援用を行なう手間を考えると資産を相続してもメリットがあまりない、というのであれば相続放棄も検討してみましょう。
ただし、相続放棄をするには相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行なわなければいけないので、期限が過ぎないように注意が必要です。
債務者が生存していて督促を無視し続けている、もしくは行方不明になっているなどのケースでは、家族が時効の援用の手続きを行なうことはできません。なぜなら、時効の援用の権利を持つのは返済義務のある当事者のみのため、借金をなくすには本人が時効の援用の手続きをするしかないからです。
本人に代わって時効の援用の手続きをしたい理由が、貸金業者から家族に請求がこないか不安ということであれば、保証人でもない家族に返済義務はないので心配はいりません。貸金業法でも貸金業者が本人以外に請求することは禁止されており、違反すると刑事罰が課されます。もしも、保証人になっていない借金を貸金業者から請求された場合、警察に相談しましょう。
民法では時効の援用の権利者を「当事者」と呼び、当事者として認められるのは次のようなケースです。
詐害行為の受益者とは、詐害行為で利益を得る人のこと。詐害行為については、債務者が債権者の不利になると分かっていながら財産を処分または譲渡して、債権者に渡らないようにする行為を指します。
たとえば、金融機関からお金を借りているAさんが、唯一の財産である家を差し押さえられないように自分の子どもに家を譲り渡す行為は、詐害行為にあたります。このケースでは、Aさんの財産(利益)を手に入れた子どもが詐害行為の受益者となるわけです。
詐害行為の受益者に時効の援用を認めるかは解釈が異なる場合もあるため、詐害行為の受益者が時効の援用を行なうのであればしかるべき相手に相談するのがおすすめです。
代表弁護士:田中 健太郎 先生
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