借金を整理!やさしくわかる「時効の援用」 » 借金が消滅する?時効の援用とは » 時効の主観的起算点と客観的起算点

時効の主観的起算点と客観的起算点

借金の消滅時効を援用する場合、そもそも時効に関して主観的起算点と客観的起算点の違いを正しく把握しておかなければなりません。このページでは、時効の成立や期間に関係する主観的起算点と客観的起算点についてまとめました。

主観的起算点とは?

主観的起算点とは、権利の消滅時効や時効のスタート地点を考える上で重要なポイントであり、「権利者が権利の発生や履行期の到来を主観的に認識した時点」を意味します。

例えば借金問題であれば、債権者が債務者に対してお金を貸して債権が発生したと認識した時点や、最後に返済をしてもらった時点となります。

民法において、時効が成立するためには主観的起算点から「5年」が経過していなければならず、さらにその期間は権利が行使されていないことも必要です。

そのため、仮に最後の返済から4年間、借金の返済がなかったとして、5年目に債権者から債務者に対して返済を求めて、債務者が少しでもお金を返済した場合、その時点が主観的起算点となって時効期間がリセットされるという仕組みです。

客観的起算点とは?

客観的起算点とは、「債権者が法的な障害を受けずに権利行使が可能になった時点」を指します。そして消滅時効は客観的起算点から「10年間」が経過した時点で成立します。

主観的起算点が「債権者による認識」を必要としていたのに対して、客観的起算点は債権者による認識を必要としていません。つまり、債権者が知らない間に権利が発生していた場合であっても、その権利が発生した日が客観的起算点となります。

そのため、例えば債権者が債務者に対して10年前にお金を貸したことを忘れていたとして、そのまま10年が経過すれば客観的起算点から10年が経過したとして消滅時効が成立します。

民法の改正で何が変わった?

債権や債務といった借金問題に関しては民法によって消滅時効が主観的起算点から5年、客観的起算点から10年と定められていますが、これらの考えや計算方法が法的に統一されたのは2020年(2017年交付)の消滅時効に関する民法改正がきっかけでした。

主観的起算点という考えが生まれた

法改正前の民法では、時効の起算点について「権利を行使可能になった時から」という客観的起算点がベースとなっており、そこに職業別に時効期間などが定められていました。そのため、例えば個人間の借金問題については時効が「10年」となっていた他、飲食店に対する顧客の「つけ」については時効が「1年」であったり、卸業者との取引におけるの売掛金については時効が「2年」であったりとケースバイケースの対応が必要でした

しかし民法改正によって職業などによる区別や期間の違いがなくなり、「権利を知った時から5年(主観的起算点)」と「権利を行使可能になった時から10年」という統一が成されました。

民法改正の目的

民法改正前は、消滅時効の計算方法や職業別の対応について複雑であり、しかも1896年(明治29年)に制定されて以来、120年にわたってその状態で制度が維持されているという点が問題になっていました。言い換えれば日本社会の商取引や様々な契約は一世紀以上前のルールが前提になっていたということです。

そこで、現代の商習慣や社会における契約の在り方などを踏まえた新しい法制度が必要であるという観点から、一部の規定を除いて改正法が2020年4月1日から施行されるという流れになりました。

※参照元:法務省|民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html)

改正前(旧民法)

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起算点 時効期間 債務の例
原則 権利の行使が可能になった時点 10年 個人間の借金など
職業別 権利の行使が可能になった時点 1年 飲食料や宿泊費など
2年 弁護士への依頼や卸業者の売掛金など
3年 医師や診療所への診療報酬など
商事 権利の行使が可能になった時点 5年 消費者ローンへの借金など

改正後(新民法)

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起算点 時効期間
原則 権利を知った時点
※主観的起算点
5年
権利の行使が可能になった時点
※客観的起算点
10年

旧民法が適用される場合

改正法の施行前に成立した取引については旧民法が適用

民法改正によって債権や債務についての考え方が単純化され、借金問題に関連した事項の計算方法などに関しても分かりやすくなったことは重要です。一方、そもそも法律には「事後法の禁止」や「遡及の禁止」といったルールがあり、新しく成立した法律によって過去の取引や問題について権利者に不利益が生じないよう定められていることも無視できません。

つまり、2020年4月1日に改正民法が施行されるよりも先に発生していた債権・債務といった権利関係については、その消滅時効のルールも改正後でなく改正前の民法によるルールが前提となります。

そのため、例えば民法改正によって主観的起算点と客観的起算点が変更されて、時効までの期間が延長されたようなケースでも、改正前に成立していた飲食料や売掛金であれば、5年を待たずに時効が成立するといったことも考えられます。

民法改正前の契約かどうかチェック

債権債務の関係について時効の援用を考える場合、そもそも借金をしてから長い期間が経過していることも多いでしょう。しかしその場合、2020年の民法改正の前に発生した借金か、改正後に発生した借金かで時効期間やそのスタート地点についてもルールが変わります。

また民法の改正によって従来はなかった主観的起算点という考え方も追加されており、時効の援用などについて分からない場合は一人で悩まず弁護士などの専門家へ相談することが大切です。

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